東京に雪が降った翌日、わが家では昼飯に納豆汁が出た。納豆を擂りこみ、豆腐や油揚げなどを具材としたみそ汁で、昔は僧家のものとされていた。わが家の納豆汁は、ひきわり納豆に刻み揚げと木耳(!)の入ったユニークなものだったが、とにかく体が温まる。
▼納豆汁は昔から人の体と心を温めてきた。「納豆汁腹あたたかに風寒し」(正岡子規)、「禅寺や丹田からき納豆汁」(夏目漱石)、「糟糠の妻が好みや納豆汁」(高浜虚子)。喫食経験者なら俳句から納豆の匂いと湯気を感じるかも。
▼俳聖、松尾芭蕉は納豆汁が好きだったかどうか。「納豆切る音しばし待て鉢叩き」の句では、納豆を包丁で細かく砕く音よりも鉢叩き(鉦やひょうたんを叩きながら念仏を唱えてまわる空也念仏)の方に耳を傾けたい様子だ。
▼多くの句を詠んでいる与謝蕪村は恐らく納豆汁が好きだったろう。「朱にめづる根来折敷や納豆汁」「朝霜や室の揚屋の納豆汁」「入道のよよとまゐりぬ納豆汁」。納豆汁の句を写しているだけでお腹が温まってきたような気がするが、きっと気のせいだろう。