1千300年前に遣唐使が持ち帰った技術を三輪(奈良県桜井市)の宮司が地域に広めたことから、三輪そうめんは日本の麺の発祥地と言われる。伝統産業にも機械化が進むが、気候によって捏ねを調整し、手で細く長く延ばす作業は今もなお職人の勘が必要だ。
人が重要な要素を占める手延べそうめん業界にとって、この5年間は高齢化や後継者不足がいっそう深刻になっている。団塊世代の引退に伴い全国の産地では急速に供給量が減少。生産量の維持拡大が急務になる中、原料小麦や油、人件費の高騰が追い打ちをかける。
こうした局面の中、21年秋には三輪そうめん生産量の約4割を占める、奈良県三輪素麺工業協同組合の新理事長に小西幸夫氏(三輪そうめん小西社長)が就任した。
組合ではかつて需要と供給のバランスをとるために生産調整を行っていたが、この3~4年に生産者が激減して今度はフル生産も供給が追い付かない状態が続いている。9月から生産を開始した「令和3年度産」は、前年減の9万6千箱(1箱18㎏換算)を予定する。
現在、組合に加盟する生産者は62軒だが、休業者も含まれる。新規参入が難しい業界のため、できれば身内の後継者が望ましいが、朝が早く重労働、儲からない業界体質から若い人に敬遠されがちだ。そのような中、昨年は新たに休業者の孫が継いで生産を復活したケースもあった。三輪そうめんを後世に存続させるために、新しい組合の在り方が望まれている。
今、新たな構想にあるのが直営工場の設立だ。分業で効率的に生産ができれば量が作れ、早朝から作業を始める必要もない。
「生産者にとって身体が楽になる環境になれば高齢になっても働け、後継者が育ちやすくなる。いろんな人の仕事をつくり、雇用を創出できれば地域も活性化する」と小西理事長は語る。
伝統産業を後世に残すため、国や地域行政の支援を受けながら、組合と販売協議会が共存共栄できる土台づくりを進めたい考え。また組合員が適正利益を得られるために、21年秋に3%の値上げを実施した。
小西理事長に改めて三輪そうめんの強みを聞いた。「歴史が古く、他の産地にはない、強力粉を使った極細の麺をつくる技術」だと言う。それを最も具現化した極細麺「三輪の神杉」はたびたびメディアで紹介され、今もなお品薄が続く。手延べそうめんならではの付加価値商品を作り、オートメーション化された機械製乾麺と差別化を図る。厳しい環境であるからこそ皆で知恵を働かせて先々を考え、地域特徴を生かしていきたいと考える。