鹿が急速に増え森林生態系に深刻な脅威 柵を設けるなど生物多様性に取り組むサントリー

 近年、鹿が急速に増え農林業への被害に留まらず森林生態系全体への脅威になりつつある。

 環境省の2019年度の発表によると 17年度のニホンジカ(本州以南)の推定個体数は約244万頭で14年度以降減少傾向にあるものの、繁殖力が高く、23年度の半減目標(約130万頭)を達成するには18年度の約1.77倍の捕獲率を確保する必要がある。

 これにより、鹿はおいしい草を食べ尽くすと笹のようなケイ酸が多い硬い葉やトリカブトのような毒草まで食べるようになる。

サントリーホールディングスの山田健サステナビリティ推進部チーフスペシャリスト
サントリーホールディングスの山田健サステナビリティ推進部チーフスペシャリスト

 鹿の繁殖が進むにつれて、鹿が食い尽くす順番でその植物を糧や守りとしていた動物・微生物・土壌生物などが減少し生物多様性が失われ生態系ピラミッドが崩れていく。

 一方、生物多様性に富んだ森林は、水源涵養林としての高い機能を持ち洪水や土砂災害が起きにくくなる。
 
 サントリーでは、全国の工場の水源涵養エリアで地下水を育む力の大きい森を目指し03年から「天然水の森」と名付けた水源林保全活動を行っている。

鹿が草を食べ尽くした林
鹿が草を食べ尽くした林

 森の中で落ち葉や草の根など有機物が供給されると小動物や微生物が地下で土が団粒化しフカフカの手触りに変わっていくことから、地下水源涵養で最も重要なカギを健全な森林土壌の育成と位置付ける。

 フカフカな森林土壌には雨水が浸み込みやすく微生物的な水質浄化機能も高まる。

 この土壌を育む大きな役割を担うのが木や草の根で「多様性に満ちた森では様々な植物の根が万遍なく張り巡らされ、それらの根の先端にある細根が冬に枯れ春にまた新しく伸びる。この繰り返しで土はゆっくりと耕される」。

「天然水の森」の植樹活動
「天然水の森」の植樹活動

 

 植物の根は、積極的に栄養分を浸出させ植物を守る菌根菌やバクテリアを呼び寄せ、多様な植物が生えている森ほど土の中の微生物の多様性も高まる。微生物には、雨に含まれる汚れや動物の糞や死骸などから汚れを浄化してくれる役割がある。

  間伐や植樹など様々な森林整備を行う中で、生物多様性を脅かす鹿の増加に対しては、重要な植物が生えている場所や植樹・間伐エリアを鹿柵で囲み、柵の外では鹿が好まない植物で地表を被覆することで土砂流失や斜面崩壊を防いでいる。

フカフカな森林土壌には雨水が浸み込みやすく微生物的な水質浄化機能も高まる
フカフカな森林土壌には雨水が浸み込みやすく微生物的な水質浄化機能も高まる

 「サントリー天然水」の全国に4ヵ所ある水源の中では、「天然水の森 南アルプス」で鹿の増加が見受けられることから「影響が出ているまでには至っていないが、鹿問題をなんとか解決すべく外部との合同調査・研究をスタートした」。

 なおサントリーが現在整備している森林の面積は、全国15都府県21ヵ所で東京山手線内のほぼ2倍に相当する約1万2000haに及ぶ。
 これは「工場でくみあげている地下水の2倍を森で育むという理念を充分に満たしている」という。

鹿の食害対策をした森
鹿の食害対策をした森