塩の日 信玄公は何思う

11日は塩の日。「敵に塩を送る」の故事に因んだ。長らく『敵に塩を贈る』美談と勘違いしていたが、上杉謙信は武田信玄に無償で塩を提供した訳ではなく正価で販売したようだ。また、武田方の塩商人が越後に赴いて塩を運んだので、正確には「敵に塩を売る」だった。

▼とはいえ、単なる商取引ではない。北条、今川の両家から塩の販売を絶たれ、当時甲斐の国は深刻な塩不足だったという。謙信が「勝敗は戦で付けるもの」と塩を売ったのだからやはり美談だ。だが、信玄はさぞ悔しかった事だろう。自国に塩を産み出す海が無いことに。

▼石炭を焚いて発電し、副産物の蒸気で海水から塩を造る――日本は最も効率的な製法を独自に編み出し、運用してきた。昨今、脱炭素化のうねりが強くなり、製塩業はエネルギー転換で頭を悩ませる。使用エネルギーを何に換えても莫大な設備投資が必要でランニングコストも上昇する。

▼減塩志向が止まないが、塩が生命維持に不可欠なのは事実。輸入だけに依存する訳にはいかない。信玄が今の時代に生きていたら何と言うだろうか。