価格改定の新春スタート 業界挙げて食品の価値訴求を

国内ではワクチン接種が進み、緊急事態宣言が解けた昨年10月以降は人の動きが徐々に戻り始めた。経済の回復に向けての再スタートが期待された。だが、新たな変異種・オミクロン株の発生。期待感より先行きが見えない不安感が優先する新年となった。対処療法に終始し、「with」「zero」いずれかの方針を打ち出せない国の姿勢も、国民を惑わしている。

一方、食品業界は主要食品の多くが価格改定一色に染まった。原料高、物流費高騰、コロナ環境下で発生したサプライチェーンの混乱など様々な要因で昨年秋口以降価格改定が相次ぎ、今春も値上げが続く。

「失われた30年」は、所得が上昇しなかったものの、食品の値上げも抑えられた。国内経済が回復せず、所得が増加しない中での食品値上げは、消費者の買い控えを招く恐れが懸念される。だが、メーカーの自助努力はもはや限界だ。包材では、プラスチック資源循環促進法の施行によるプラスチック製品の削減もコスト高の要因に加わる。

食料原料やエネルギー源の多くを輸入に依存するわが国は、海外で新型コロナの感染拡大・収束が繰り返される度に、グローバルな変化が直接届くようになった。

所得が上がらない中でのインフレは、経済成長のさらなる停滞を引き起こす懸念があるが、このままでは国際競争力をますます失い、食品原料、エネルギーを買い負けることになる。メーカー、流通をはじめオール食品業界で価格改定を徹底しつつ国民の食を守りたい。

中食・外食 から揚げ業態は飽和感に
宅配需要増も収益につながらず

外食産業は昨年、企業別では日本マクドナルド、王将フードサービス、サイゼリヤ、業態別ではから揚げの新規展開が目立った。

回転寿司では前9月期を売上高、利益ともに過去最高の業績となったスシローも今期は実績並で推移している。ワタミは昨年12月、「すしの和」で寿司業態に参入した。

から揚げは外食、中食ともに全国的に新規参入が急増した。ガストは既存店に併設した「から好し」、ワタミは中食メーンの「から揚げの天才」をハイピッチで店舗開発。業務用フライヤーの進化によって、誰でも同じ商品を供給できる参入障壁の低さが急増の背景だが、鶏肉生産国のタイでは新型コロナウイルスの感染拡大によってサプライチェーンが分断される事例が発生し、鶏肉価格も高騰している。食用油の値上がりでコスト高は必至。競合店の乱立ではさらなる新業態開発も進みそうだ。

いずれの外食、中食企業も「戻りきることはない」との共通認識で再スタートを切っているが、新種ウイルスの出現で再び暗雲が立ち込めている。コロナ環境下ではテイクアウトやデリバリーで対応する企業が急増したが、デリバリーについては店舗収益の大部分を業者に奪われてしまう。食品原料高、諸コスト高を踏まえた価格改定を進めながら、業者によるデリバリーよりもテイクアウト需要の拡大を念頭に置いた事業展開となる。

流通 コスモスは東、ロピアは西へ

小売業では、百貨店が巣ごもり、自粛生活の反動ともいえる「リベンジ消費」で活気ある年末商戦となったが、コロナ環境下では市場規模が縮小している。食品スーパーでは、関西スーパーマーケットほか3社が統合され「関西フードマーケット」が2月に設立される。オーケーの関西進出は一旦頓挫したが、ロピアは2020年9月に進出以降大阪、兵庫、奈良、京都で計7店舗を展開し気を吐いている。首都圏で鍛えられたディスカウンターが関西でも高評価されているのは確かで、オーケーの次の一手が注目される。食品スーパーはいずれも、総菜のレベルアップとネット通販など新たな販売手段の構築に向けたデジタル投資を急ぐ。

ドラッグストアではコスモス薬品の出店攻勢が止まらない。東征を続けて1都6県で計41店舗、昨年は首都圏で30の新店を出店した。業界の最大手はウエルシアHD、マツキヨココカラ&カンパニー、ツルハHDの順。コスモス薬品は第4位だが、ワンストップショッピングの利便性、郊外型という地の利、食品の売上構成比が約58%と極めて高いビジネスモデルが急成長の原動力となっている。首都圏では今年も同規模の新規出店が見込まれる。

コンビニは、百貨店と並びコロナ禍で最も悪影響を被った業態の一つ。昨秋以降も業績の回復スピードは鈍く、国内店舗数の飽和感も業界内に漂っており、成長エンジンは海外市場の開拓になりつつある。

総合的には海外市場を攻め、国内市場ではブランドを守る形か。ユーザーの囲い込み施策では各社がラストワンマイル戦略を講じている。その中で話題を集めたのは、ファミリーマート。王者・セブンを意識した「そろそろ、№1を入れ替えよう。」「チャレンジするほうのコンビニ!」は、消費者だけでなく業界にも強烈な印象を与えた。

コロナ環境下での停滞は、コンビニ業態に新たなビジネスモデル構築、新たな機能を付加するチャンスにもなったはず。ローソンを含めコンビニの環境への変化対応にも関心が集まる。食品スーパー、コンビニはいずれもPB開発がブランド価値向上の要だが、コスト高による食品値上げが相次ぐ中で、価格だけに軸足を置いた商品開発が支持されるかは疑問だ。価値に重きを置いた商品開発が期待される。

流動化する価値観/環境保護、健康は不変

食品でも業界各社が、SDGsという価値観に沿った取り組みを行っている。骨子は二酸化炭素の排出を差し引きするカーボンニュートラルの達成だが、食品ロスの低減、プラントベースミートの開発が進展。日清食品は培養肉ステーキの開発に取り組んでいる。

こうした地球環境保護の価値観と同時に、健康に関する関心も一層高まっている。特に生活の質を高めるQOL(quality of life)の概念は、コロナの感染拡大により消費者への浸透が加速化、サプリメント市場は初めて市場規模1兆円を超えた。

コロナ環境に加え、機能性表示制度の普及も後押ししたと思われるが、巣ごもりによる健康疎外感が需要増に影響した。ダイエット、免疫関連のキーワードがバズり、青汁製品、免疫強化につながる乳酸菌関連の需要が拡大の途にある。

デフレ経済は約30年続いたが、昨年は小麦、砂糖、食用油などが原料高騰によって価格改定に踏み切り、今年は1月に食パン、小麦製品、しょうゆ、酒、ソーセージ、塩(業務用)と値上げの嵐が吹く。

デフレ下では「値上げ=悪」であり、値上げしない小売業は「消費者の味方」というイメージで語られてきたが、いよいよそうした牧歌的な考え方だけでは乗り切れなくなってきた。

特に新型コロナ禍では日本はもちろん、欧米をはじめ世界的に経済が停滞し大きな痛手を負ったが、日本はそれ以前から多くの先進国の後塵を拝してきた。コロナでも経済復興が遅れれば、買い負けて必要な食糧、資源が手が入らない事態にもなりかねない。米でさえ、石油と肥料の輸入が止まったら自給率100%を割ることは必然の状況だ。

小売最大手のイオンはトップバリュの価格改定を12月末まで据え置くとしていたが、3月末までの延長を発表し消費者を喜ばせる一方で、業界関係者を落胆させた。それぞれの企業の考え方は十分尊重するが、日本経済の現状と今後予想される未来をイメージすると憂慮してしまう。それが杞憂となることを切に願いたい。

 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)