キリンビバレッジの堀口英樹社長は17日、今後の方向性について「午後の紅茶」「生茶」「ファイア」の基盤3ブランドと健康領域に一層集中し、その実行のバトンを後任の吉村透留(とおる)次期社長に渡す考えを明らかにした。「基盤商品をしっかりブランディングして効率的に事業展開していくことに加えて、ヘルスサイエンスの領域を成長の種として育てていく。この両輪にリソースをかけて実行するステージを吉村に引き継ぎたい」と語った。
同社は今年、「健康と環境を軸としたCSV活動」を骨子に事業を展開している。
健康領域では「摂りすぎない健康」と「プラスの健康」の二つでアプローチ。この中で勢いづくのがプラスの健康で、その牽引役となるプラズマ乳酸菌入り飲料の1-11月累計販売数量は前年同期比82%増の481万ケースとなった。
これには10月に新発売した「午後の紅茶 ミルクティープラス」と「生茶 ライフプラス 免疫アシスト」のプラズマ乳酸菌入り新商品が寄与。「(同2品で)トライアルがかなり進んだのが大きかった」と振り返る。
一方、無糖・微糖飲料の「摂りすぎない健康」は、8月と9月の長雨・低温で全体的に足踏みする中、「午後の紅茶 おいしい無糖」と「ファイア ワンデイ」が好調となった。
「おいしい無糖」は、9月に新発売した派生商品「おいしい無糖 香るレモン」が寄与して「おいしい無糖」シリーズトータルで今年1千万ケースの突破を見込む。
「ファイア ワンデイ」は1-11月、「ブラック」が前年比約3割増を記録したことに加えて、3月に新発売した「ラテ微糖」が純増となりシリーズ計では約2倍に拡大した。
そのほか、健康領域では将来の種まきとして、働き盛り世代の朝食の欠食と政府が推進する健康経営に着眼した法人向け福利厚生サービス「Kirin naturals」が拡大している。「コロナ禍による変化をプラスにとらえていただき、オンラインでも展開することで大きく変化した」という。
「Kirin naturals」は19年1月から開始し、今年2月時点で約300拠点に導入。昨年10月からはリモートワークに対応した新プランとして「Kirin naturals ベーシックプラン」を展開している。
協業では、19年に資本業務提携を締結したファンケルとの取り組みが「着実に進んでいる」と総括。今後については「ヘルスサイエンス領域を拡大させていくためには当社単体では限界があり、グループ全体のシナジーが不可欠になる。そういう観点でファンケルさまが持つ資産やノウハウを生かして商品やサービスに取り組む必要がある」と述べる。
環境の取り組みでは、「生茶」を「健康と環境を軸としたCSV活動」の環境のフラッグシップブランドに位置づけて、ラベルレスボトルを大々的に展開した。
これについては「流通さまにはご理解いただいたが、商品の消費という関連性から言うと道半ば。本当に環境を意識して購入される方もおられるが、さらに広げていくべくZ世代に向けてSNSを駆使するなどして粘り強く啓発活動を行っていく必要がある」との見方を示す。
堀口社長は22年1月1月付でキリンビール社長に就任する。現職に就いた16年3月からの6年弱で、やり遂げたこととしては収益改善を挙げる。
着任前の15年12月期の事業利益率は1.5%で、これを19年12月期には9.1%へと引き上げた。20年12月期はコロナ禍の影響でやや足踏みしたものの19年に近い水準を維持した。「利益率1.5%という中で、ブランドの育成とSKUに対する選択と集中を通じて収益改善に一定の成果を出すことができた」と自負する。
乳業やハードリカーでの経営にも身を置いたことのある堀口社長にとって、飲料業界は「さまざまな新しい価値がスピーディに生まれ、お客様の反応と行動がビビットに感じられる『ファーストムービングな業界』」に映る。
飲料業界の今後については、消費量の減少は少子高齢化には抗えないとしボリューム以外のアプローチを提唱する。「飲料市場が人口減少の大きなムーブメントを破って再び長期にわたり成長していくことはない。ブランドは大切な資産なので、われわれも含め各社が強化し続けていかなければならないが、それだけではなくCSVの観点を織り交ぜつつパーパス(存在意義)をもう一度整理して、新たなスタートを切らなければいけない」と指摘する。
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