「売上げのみ追求するとお客様第一主義でなくなる」 「茅乃舎」に次ぐ新戦略とは?久原本家グループ河邉社主が語る

素材と感性重視のブランドでファンづくりを

だしで高いブランド力を持つ「茅乃舎」。ブランドオーナーの久原本家グループでは「茅乃舎」に磨きをかけつつ、新たな成長の柱づくりとして北海道の農作物を中心とするブランドづくりに注力している。

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同社は、明治26年(1893年)に創業した醤油蔵を原点とする非上場の総合食品メーカー。

「茅乃舎」の起爆剤となった「御料理 茅乃舎」(久原本家グループ)
「茅乃舎」の起爆剤となった「御料理 茅乃舎」(久原本家グループ)

「茅乃舎」に加えて、北海道産の卵に自社製造のたれを使ったからし明太子「椒房庵(しょぼうあん)」、「キャベツのうまたれ」をはじめとするうまたれシリーズやあご(トビウオ)だしシリーズなどの「くばら」の三つをブランドの柱とし、近年はこれらの中で「茅乃舎」が抜きん出て大きくなっているという。

河邉哲司社主は、このバランスの欠いた状態を望んでおらず、かといって「椒房庵」と「くばら」の二つをこれから大きく成長させるのも難しいと考えている。

特に「椒房庵」は北海道のスケトウダラの卵にこだわっており、「水産資源の枯渇問題と原料価格の高騰などの心配な状況が続いている」と説明する。そこで打って出るのが、調味料ではなく、北海道の農作物を使った食品のブランドづくり。「椒房庵」の原料調達先である北海道にいつか恩返しがしたいと河邉社主が30年前から温めていたプランとなる。

「椒房庵」(久原本家グループ)
「椒房庵」

「調味料のビジネスも継続していくが、それ以上に食品に注力して、おいしい北海道の素材を日本はもとより世界に発信したいというのが私の夢であり、4本目の柱に位置付けている」と意欲をのぞかせる。

北海道の農作物のポテンシャルは、北海道産米「ゆめぴりか」の味わい向上で垣間見られたという。「あまり喜ばしいことではないが、温暖化の影響で北海道のお米など農産物が格段とおいしくなっている。逆に水産物は博多湾にも熱帯魚が出現するなど年々取り巻く環境が厳しくなっている」との見方を示す。

北海道での4本目の柱づくりには地域活性化の思いも込める。

「当社の売上の大半はD2Cビジネス(直接販売)によるもので、D2Cであれば価格が少々高くても当社がモットーとする『おいしさ』にこだわれば、ご購入していただける。北海道の農作物にもその可能性があり、加工して付加価値を高めていくビジネスを考えている。北海道の方々とともに地方の小企業のビジネスモデルをつくっていきたい」と述べる。

久原本家グループの業績は拡大基調にあり、20年2月期グループ売上高は281億円。

21年2月期売上高は、コロナ禍の外出制限が直営店運営に影響してほぼ前年並みとなったが、コロナによる生活者の意識やライフスタイルの変化を追い風ととらえる。

北海道産素材を使った鍋つゆ(久原本家グループ)
北海道産素材を使った鍋つゆ

「外食機会が減り、家庭でおいしいものを食べたいという欲求が高まっている。そうした中で求められるのは大量生産・大量販売ではなく、少し高くてもおいしいものを提供していくことにあり、われわれの責務と考えている」。

お客様第一主義を掲げて、ブランドを磨きファンづくりに邁進していく。この考えの下、規模拡大には極めて慎重だ。

「売上を追求してしまうと、お客様第一主義ではなくなり『自分第一主義』になりかねない。お客様にいかに喜んでいただくか。それを愚直に考えた結果が売上と考えている」と語る。

ビジネスの根幹ととらえているブランドに対しても同様で、やみくもに露出拡大を図らない方針。「ブランドビジネスを雑巾に例えると、ガチガチに絞らず、ぬれた状態であるべき。つまり、どこでも簡単に買えない状態がふさわしい。ブランドの命が一定だと考えると、太く短く生きるか、細く長く生きるかという話になり、売上を追えば間違いなく太く短くなってしまう」と主張する。

ブランドづくりの原点は、最後発で博多の明太子市場に参入した「椒房庵」にある。「椒房庵」で培われた経験・知見が「茅乃舎」で開花した。

「『椒房庵』は最後発だが、今では福岡空港にも出店し地元で3大ブランドの一つとして認知されるようになった。『椒房庵』でブランドがどうあるべきかを勉強して、それを『茅乃舎』にぶつけた。店舗運営やECも『椒房庵』で学び、この経験がなければ『茅乃舎』にたどり着くことはなかった」と振り返る。

「茅乃舎」の展開は、同社の歩みの一番のターニングポイントとされる。福岡県久山町の風光明媚な自然の中にぽつんとたたずむ茅葺き屋根の和食レストラン「御料理 茅乃舎」の運営が「茅乃舎」の起爆剤となった。

久原本家グループ本社
久原本家グループ本社

「母親の故郷である宗像市にある1717年創業の造り酒屋がいまだに茅葺きで小さい頃から葺き替えを見ていたが、大人になって改めて見に行ったところ職人さんが大分県日田市出身であることを知り驚いてしまった。日本の伝統文化を守りたい、そして多くの人に茅葺きを間近で見てもらいたいと考え、茅葺き屋根和食レストランのアイデアが浮かんだ」という。

「御料理 茅乃舎」では、河邉社主も大好物というあごだしにこだわった料理を提供したところ、だしが話題となり、あれよあれよという間に人気を博し「茅乃舎」ブランド誕生へとつながっていった。

ブランドづくりでは感性の要素を重要視。そのため従業員には感性を高めることを目的に芸術鑑賞の支援制度を設けている。

「『いいものを見て美しいと感じる貴方の心は美しい』という言葉があり、私は常に感性を磨いてほしいと言っている。素敵だなと思う心をいかに醸成するかが大事。パッケージも物すごく重視している」と語る。

看板商品の「茅乃舎だし」(茅乃舎)
看板商品の「茅乃舎だし」

事業の永続を考えてブランドを守りながら海外にも進出している。

「香港・上海へ店舗、アメリカには通販事務所を設け、アメリカではコロナのおうち需要の高まりで好調に推移する一方、レストランを運営しているベトナムではコロナ感染拡大で閉鎖し苦労している。将来、人口が減少する国内だけではビジネスは成り立たないと考えており、海外も着実にやっていかないといけない。海外には和と北海道の二つの切り口がある」との考えを明らかにする。

河邉社主は4代目。オーナー企業には善し悪しがあり、それにこだわるつもりはないが、オーナー企業や非上場の強みにスピード感を挙げる。

「やはりオーナー企業の良さはスピードにある。そして、私は株主ではなく、お客様と従業員の顔を見て仕事をしていきたい」との考えだ。

河邉社主の座右の銘は「偶然は必然なり」。これまでの歩みを、人との出会いによるものだとし、感謝の気持ちを大切にしている。

「振り返ると運が良かったと思うが、これは偶然ではなく人に導かれたのだと思う。いままで数々の人との出会いに恵まれ、このことへの感謝の気持ちを常に持ち続けるようにしている。感謝と永続が大事だと言い続けている」と述べる。

この考えの下、お客様に対しては、事の大小を問わず事業横断でお客様に喜ばれることを考える「お結び課」を2009年に設立した。

「久原本家グループのファンになっていただくことだけを愚直に考え、その結果が売上になり永続につながる。私は売上というのはお客様の喜びの数だと考えている」という。