コーヒーの未来へ サステナブル経営支える秘境の自社農園 果肉を0℃以下で貯蔵の新技術も キーコーヒー

キーコーヒーのサステナブル経営の柱は、旗艦のコーヒーブランド「トアルコ トラジャ」の生産地であるインドネシア・スラウェシ島の秘境・トラジャの山岳地帯にある。同社はここに、現地法人トアルコ・ジャヤ社を1976年に設立し東京ドーム約113個分の530haという広大な面積を持つパダマラン農園を直営しているほか、周辺の協力生産農家や仲買人からコーヒー豆を買い付けている。

柴田裕社長がトラジャを初めて訪れたのは1980年代。当時、学生だった。「初めて訪れた農園がパダマラン農園だった。訪れてみるとコーヒーの生産がいかに大変であるかが分かった。つくるだけでなく港町へ運ぶのも大変だと肌で感じることができた」と振り返る。(写真下記事続く)

パダマラン農園で早朝から作業するピッカー(トアルコ・ジャヤ)
パダマラン農園で早朝から作業するピッカー(トアルコ・ジャヤ)

トラジャから港町・マカッサルへの道のりは今も長く、車で約8時間を要するが、80年代は道の整備も今ほどにはなされておらず輸送も長丁場の仕事だった。

発展に伴いインフラが整い、住民の意識にも変化がみられるようになったという。「最初の頃はコーヒー生産という概念が薄かったが、産地が注目されるようになり産業が興ってくると、トラジャの方々も農業大学に進学しパダマラン農園でマネージャーを務めるようになるなど変化がみられた」と述べる。

港町・マカッサルから農園へは車で8時間!/トラジャ・ペランギアン村の生産者とトアルコ・ジャヤ社員
港町・マカッサルから農園へは車で8時間!/トラジャ・ペランギアン村の生産者とトアルコ・ジャヤ社員

トラジャでは、トアルコ・ジャヤ社が協力生産農家と信頼関係を構築している。出張集買所を設けてコーヒー豆を買い付けているほか、栽培講習会を実施し生産効率の向上に取り組んでいる。「生産者を育成し、われわれも生産者から教えを受けたりする持ちつ持たれつの関係にある」という。

コーヒーの持続的な生産には、協力生産農家の生活向上と地球温暖化への対策がある。

生活向上には、優秀な協力生産農家を讃えてコーヒー豆の品質アップを促進する「キーコーヒーアワード」を創設。

多くの農家では、手作業でコーヒーチェリーの脱肉やパーチメントの水洗が行われている中、アワード受賞者にはパルパー(脱肉機)などを贈呈。生産意欲向上への強い動機付けになっているほか「受賞式では各地から生産者が集まり、われわれとの情報交換やコミュニケーションの機会にもなっている」。

地球温暖化などの気候変動への対応としては、国際的な研究機関ワールド・コーヒー・リサーチ(WCR)と16年4月に協業を開始し直営のパダマラン農園の一角を実験圃場として提供している。(写真下記事続く)

国際的な研究機関ワールド・コーヒー・リサーチとの活動も/国際品種栽培試験を行う実験圃場/手仕事で行われる選別作業
国際的な研究機関ワールド・コーヒー・リサーチとの活動も/国際品種栽培試験を行う実験圃場/手仕事で行われる選別作業

地球温暖化で気候変動が続くと2050年にはアラビカ種の栽培適地が現在の50%にまで減少する「コーヒーの2050年問題」の警鐘が初めて鳴らされたのは、15年に開催されたミラノ万博でのセミナーだった。「もう少し早く気が付くべきであったが、セミナーを聴講して、食の危機、自然に享受しているものがなくなってしまうことに危機感を抱き、帰国後すぐに役員と共有し動き出した」と語る。そのアクションの一つがWCRとの協働となる。

実験圃場ではコロンビアやパナマなど世界各地を原産とする40品種程度のコーヒーの苗木が植えられ、インターナショナル・マルチロケーション・バラエティ・トライアル(IMLVT=国際品種栽培試験)を実施し、世界各地の品種の中から気候変動に耐えベストパフォーマンスを発揮する品種を発掘している。

気候変動の影響を受けた品質を精選技術で補う活動も行っている。

柴田裕社長(キーコーヒー)
柴田裕社長(キーコーヒー)

同社は、世界初の精選技術「KEY Post-Harvest Processing(キーポスト―ハーベストプロセッシング=KEY-POS)」の実用化に成功。

これは、収穫後のコーヒーチェリー(果肉)を0℃以下の凍る直前の温度帯(氷温域)で貯蔵する氷温熟成の技術によって香味のもととなる成分量を増加させる技術で、品質向上のほか、地球温暖化によって早熟化・品質低下を起こしたコーヒーチェリーに同技術を用いて追熟することで本来の品質に戻す役割が期待される。

新型コロナウイルスが感染拡大している現在、アフターコロナ後も感染症対策を徹底した上で持続可能なコーヒー生産に取り組む。「パダマラン農園では手作業でコーヒーの選別を行い、コミュニケーションも行われているため、ワクチンの接種が進み、コロナ禍前の状態に戻ったとしても衛生管理のレベルは引き上げていかないといけない」と引き締める。