乾麺市場は昨年、家庭内調理の急増で消費が伸びたが、今年はその反動で前年割れが続く。そのなかで業界のメガブランド、手延べそうめん「揖保乃糸」は、主力商品「上級品300g」の20年9月~21年8月の組合出庫量が過去最高の156万箱(1箱9㎏換算)を達成した。
手延べそうめんは主に秋冬に生産して春夏に消費される。昨年は商戦が立ち上がる3~5月に巣ごもり需要に沸いた。装置産業ではないので急な増産はできず、不足分は贈答用がメーンの「特級品」で対応して欠品をしのいだ。その経験から、昨年9月以降の生産分は、「上級品」の生産比率を高めて今季商戦に挑んだ。
過去最高数量の要因について、井上猛理事長は「9月の残暑が寄与して、今年2月までの秋冬需要が前倒しで推移していたこと。最需要期の7月に猛暑とオリンピックで在宅率が高まり、消費に拍車をかけた」と話す。しかし8月は2週間続いた大雨の影響により、消費が止まった。
「過去最高はあくまでも組合から出庫した量。家庭で最も消費される盆休みが低温となり、おそらく消費されていない。現に9月単月は市場在庫の飽和感と好調だった前年の裏年となり、前年比30%しか出ていない」と言う。市場はある程度落ち着いていることから、9月からの新年度生産計画は、「上級品」「特級品」を含めてトータル105万箱(18㎏換算)を目標にしている。
乾麺市場では目下、小麦粉高騰への対応に関心が高まっている。世界的な温暖化が響き、オーストラリアや北米など麺用小麦の主要産地で不作が続く。今秋に続いて来春も麦価高騰の見通しであり、小麦粉が大半の乾麺類に直撃する。
「揖保乃糸」では、昨年春に12年ぶりの価格改定を実施して、末端価格で5%上げた。原料、資材高騰に加え、人の手による作業が多い手延べ麺は人手がかかるため、人件費が直撃した。今後麦価が上昇し続ければさらに負担になる。値上げの見通しについては、「一年間の市場動向と他の業界の値上げ率を注視して、判断材料にしたい」。
同時に組合内のコスト削減に引き続き力を入れる。09年より組合内で流通する麺の収納箱を、木箱から耐久性のあるプラスティック箱に徐々に変更。緩和材などリサイクルできるものは再活用して、資材削減に取り組む。
また個包装の袋詰め、出荷工程には最新鋭の設備機器を導入して、人件費削減と生産効率の向上を図る。
伝統的な生産を守りつつ革新に取り組み、急な環境変化にも耐えうる体力を養ってきた。
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