気候変動でコーヒー安定供給に危険信号 最新対策など「産地のいま」を熱弁 キーコーヒー川股一雄副社長

地球温暖化で気候変動が続くと、2050年にはアラビカ種コーヒーの栽培適地が現在の50%にまで減少する――。この警鐘が最初に鳴らされたのはミラノ万博が開催された2015年。15年以降、奇しくも世界のコーヒー生産量は順調に推移していったが、ブラジルに次ぐ世界2位の生産大国ベトナムが昨年、干ばつで収量を大きく落とし警鐘に現実味を帯び始めてきた。

2月19日、環境省主催の「民間企業向け気候変動適応オンラインセミナー」で講演したキーコーヒーの川股一雄取締役副社長執行役員は「コーヒーは冷涼な気候を好み平均気温が2、3度上昇すると大きな影響を受ける。50年には現在の栽培適地の54%が最高気温32℃を上回りコーヒー栽培には適さない土地になってしまう」と危機感を募らせる。

川股一雄副社長(キーコーヒー)。右はトラジャ地方に伝わる船形屋根の高床式家屋「トンコナン」の模型。座る場所を意味するトンコナンは集会所として利用される
雄副社長(キーコーヒー)。右はトラジャ地方に伝わる船形屋根の高床式家屋「トンコナン」の模型。座る場所を意味するトンコナンは集会所として利用される

キーコーヒーは、秘境の地ともいえるインドネシア・スラウェシ島のトラジャの山岳地帯を開墾して1976年に現地法人を設立。以来、40年以上にわたり直営農園を営んでいる。川股副社長は85年に研修で同農園を訪れ96年から4シーズン農園長を務めた経歴を持つ。

このトラジャでの豊富な経験をもとに、コーヒー産地で現在起こっている問題と最新の対策などについて熱弁した。

まず高温高湿化でさび病をはじめとする深刻な被害を受けることを指摘。「コーヒーの葉の裏に黄色のさび病の胞子が繁殖して最終的には葉を全部落として木を枯らしてしまう。また高温障害を受けると葉が丸まり黄色になって成長が止まってしまう」と述べる。

インドネシア・スラウェシ島のトラジャの位置
インドネシア・スラウェシ島のトラジャの位置

香味豊かな完熟コーヒーの栽培には昼・夜の温度差が欠かせないとし、「夜間の放射冷却が起こらないと品質が劣ってしまう」という。

トラジャにおけるコーヒーの栽培サイクルは次の通り。

9~10月に開花し11月に雨季が始まり青色の実が肥大する。翌年の5~7月にかけて青色の実が赤色に完熟し収穫期に入る。収穫後は休眠期に入って次の年の開花を待つ。気候変動はこのサイクルを乱し、降雨パターンが変わるだけで開花量に悪影響を与える。

「乾季に土壌水分が急激に低下していくのにあわせて花芽のもとがつくられ(花芽分化)、雨季で大雨が降り土壌水分が急激に上昇するとそれをトリガーに開花する。乾季にしっかりと土壌水分が下がることが花芽に大きく影響する」と述べる。

この点、近年、頻繁に発生しているラニーニャ現象は、インドネシア近海の海上で積乱雲を盛んに発生させてトラジャなどの産地に2シーズンにわたる打撃を与える非常に高リスクな気候変動の事例となる。

パダマラン農園の一角にある実験圃場(18年撮影)(キーコーヒー)
パダマラン農園の一角にある実験圃場(18年撮影)(キーコーヒー)

「雨季が終わる時期に降水量があると夜間の温度低下が起こりにくくなり、その年の品質に悪い影響を与えるとともに、花芽分化にも悪影響を与え翌年の収穫量も痛手を被る」と説明する。

このように開花メカニズムが不順になると、季節外れの時期に開花し実をつける現象も起こりうる。

これにより「一年中コーヒーの実がつくことになり、コーヒー実を主食とするコーヒーベリーボーラーというミバエの一種が発生する。青実の表面に卵を産み、羽化した幼虫が外皮を食い破ってコーヒーの実を食べながら成虫になる。コーヒーの実が1年中あると、全体の2割が虫食い豆になってしまう」と語る。

トラジャエリアは雨が多く降るため、土壌水分が常に多く若木が根腐れしてしまうという問題を抱えており、畑の表面をわらなどで覆うマルチングという手法が広まりつつある。

キーコーヒーは、16年から協業している国際的な研究機関ワールド・コーヒー・リサーチ(WCR)と新品種の発掘にも取り組んでいる。

これはIMLVT(国際品種栽培試験)と呼ばれ、世界各地の優良品種を集めベストパフォーマンスを発揮する品種を発掘するプロジェクトで、世界22か国40地点にて同様の試験が実施されている。

「WCRとの国際品種栽培試験の目的は気候変動や病害虫に強く良質なおいしいコーヒーの品種を発掘することにあり、われわれの農園では現在4年が経過し42品種・1千480本のコーヒーを栽培している。さび病で枯れてしまった品種もあれば真っ赤なコーヒーの実をつけている品種もあり、これから収穫量の調査とカップ評価に取り組んでいく」考えだ。

協力生産農家(インドネシア)とキーコーヒー社員(18年撮影)
協力生産農家(インドネシア)とキーコーヒー社員(18年撮影)

コーヒーの木の最盛期は育苗して4~10年程度。10年以上経つと樹形が乱れ生産量が落ちるため、根元から主幹を切り落とし新たな主幹の芽を出させるカットバックを行い、さらに10年程度収穫するトータル20~30年がライフサイクルと言われている。

しかし現在は、カットバックを行わず10年で新品種の苗木に差し替える手法も出始めているという。

「コーヒー業界はGMO(遺伝子組み換え)技術とは一線を画しながら世界中の研究者が新しい栽培品種の発掘に一生懸命取り組んでいる。10年から20年に1度の頻度で発掘されている。現在、一部の農園では樹齢10年程度でブルドーザーのような機械でコーヒーの木をそのまま抜本し新品種に植え替える農園リノベーションが行われている」と述べる。

このような新品種の発掘に加えて、全世界で取り組まれているのは、農園を現在よりも標高の高い場所に移す手法だが、「標高が高くなると耕作面積が狭くなるため、なかなか決定打にはならない」と指摘する。

キーコーヒーでも13年頃からSDGsの気候変動適応策として、直営農園周辺に点在する協力生産農家の栽培地を借りて5箇所の標高の高いエリアでの栽培試験を行っている。

「栽培地をより高い場所に移すことは、電気・ガス・水道のインフラや労働力確保の問題も発生し一筋縄ではいかない。しかし、長年寝食をともにしてきた仲間が現地におり、三世代にわたりお付き合いしている協力農家の生活を守るためにもレジリアンス栽培の確立が急務となる」と意欲をのぞかせる。