徳之島コーヒー 農業と福祉の連携に一役 「集中から分散へ」 伊仙町・大久保伊仙町長が語る

徳之島の南端に位置する伊仙町は、日本一の高い合計特殊出生率と並んで長寿者が多いことから“長寿子宝のまち”として知られる。

現在、その伊仙町では“すべての町民が主役のまちづくり”を掲げて地方創生を推進しており、次世代につながる事業を目的とする徳之島コーヒープロジェクトもその一翼を担うものと位置づけている。

取材に応じた大久保明伊仙町長は「これからは農業と福祉の連携が非常に重要。高齢者が畑でいろいろな作物をつくり、できた作物を巡回して買い取っていけば雇用にもつながる。機械化ではできない手間暇かけた農業には障害のある方も働いていただける可能性がある」と指摘する。

農業と福祉の連携には、集落単位での組織づくりが必要であるとし、伊仙町が取り組んでいる特筆すべき政策としては“集中から分散へ”の取り組みがある。

各集落の活力向上策の一環として、小規模校区への住宅建設を推進して子育て世帯の定住による集落の活性化や学校児童数の維持・増加につなげているという。

「町の真ん中に住宅地を造成することやデイサービス(通所介護)を展開するのは大きな間違い。分散していけば集落は活性化する。地方創生で農業を中心として各集落が蘇ってくると、伝統文化が復活し、時代に即したコラボレーションも生まれる可能性がある。そこに加えて、世界自然遺産登録が実現し、更に国産コーヒーという大きな柱がでれば非常によくなっていく」との見方を示す。

コーヒーの幼木と當島加代子さん(鹿児島県徳之島町)
コーヒーの幼木と當島加代子さん(鹿児島県徳之島町)

大久保町長が考える高齢者による農業は、高齢者の生きがいにもつながりうる。

「行くところがあるのがいい。畑仕事がなければ、家でゴロゴロするかパチンコするしかない」と語るのは、當島加代子さん(72歳)。當島さんは元教員で3年前から家族で畑仕事に従事している。

手掛けるのは、パッションフルーツ、電照菊、ニンニク、ゴマなど。「主人はコーヒーの栽培にも積極的。ジャガイモで北海道に勝てるわけがなく、島にしかできないもので勝負するというのが主人の考え方」と述べる。

コーヒーの栽培は緒に就いたばかりで17年に定植した数十本のうち5本ほどが高さ50㎝強の幼木(ようぼく)に成長している。

言うまでもなく農業は、始めるにあたっては作物ごとに機械や道具を揃える必要があり、初期投資がかかる。また日々の作業も決して楽なものではない。

徳之島町亀津の丘陵地に複数の畑を持つ當島さんの場合、例えばニンニク畑では棒を押し込んで種撒きのための穴をつくる作業を1人でこなそうとすると半日を要するという。

新規の畑を背に泉延吉副会長(徳之島コーヒー生産者会)
新規の畑を背に泉延吉副会長(徳之島コーヒー生産者会)

ただしその分、報いもひとしおだという。「芽が出始めると、畑に行かずにはいられなくなり、畑が疲労回復剤のようになる」と語る。

コーヒーは、他の作物に比べて小まめな種蒔きや手入れが不要で、急いで収穫しなくていいのが性に合っているとの考えを持つのは、富島さんの同窓で徳之島コーヒー生産者会の泉延吉副会長(71歳)。

泉副会長は「AGFコーヒー実証農場」の管理を受託しているほか、20a(2千㎡)の広さの畑に200本弱のコーヒーの木を栽培し、過半は高さ1m以上の成木(せいぼく)で占められている。

昨春の収穫量は、18年9月台風の影響で成長途中のコーヒーの実が半分以上落ち、4キロ程度にしかならなかったという。ただし昨春は18年春と同じ本数の100本でコーヒーの花が咲き、今のところ台風などの自然災害が起きていないことから、今春は昨春以上の収穫量が見込まれる。

現在は、20aの畑から道を挟んだ場所に35aの新規の畑を設け、ここに100本以上の苗木が育てられ、最終的には750本の栽培を計画している。

「AGFコーヒー実証農場」(鹿児島県大島郡)
「AGFコーヒー実証農場」(鹿児島県大島郡)

「2つ畑で1千本が目標。2本で生豆1kgが獲れると仮定すると500g、そんなに欲張らなくても400㎏は摂れる。僕の畑は平地で一番環境が悪いので、これで上手くいけば次の人に安心して任せられる」と吐露する。

しかしながら泉副会長の日々の作業量は膨大なものとなる。コーヒーの栽培は性に合っているとはいえ、都合50aの畑に加え「AGFコーヒー実証農場」も管理しているためだ。

苗木への水やりだけで、軽トラックの上に積まれた500ℓタンクを使い計1.5㎘を1日がかりで行う。水やりは苗木の段階では毎日か2日に1回の頻度で行う必要があり、成木になれば不要となる。

18年の台風で「AGFコーヒー実証農場」の防風ネットが傾いた際にも、一人で修復にあたった。

「防風ネットは倒れないように頑丈にすると折れてしまうため、ある程度、力が逃げられるようにするのだが強風の度に支柱が傾く。台風のあとは、みんな忙しいので1人で支柱を戻さなければいけないのだが体力がいる。これまでに50本を3回やった」と振り返る。

吉玉誠一代表(徳之島コーヒー生産者会)
吉玉誠一代表(徳之島コーヒー生産者会)

泉さんの畑では、省力化を図るため、防風ネットを使わずに、畑の周りを防風対策に好適なカポックとドラセナ(千年木:せんねんぼく)の植物で囲い、畑の中にもコーヒーの木を守るように等間隔でドラセナが植えられている。

新規の畑にもほぼ同じやり方で防風対策を施していくという。

徳之島コーヒーの全体像について、徳之島コーヒー生産者会の吉玉誠一代表は、丸紅が提供した種が苗木・幼木から成木になる23年頃を皮切りに「生産量が天と地ほどの差になるだろう」と期待をよせる。