1990年に発売した「カルピスウォーター」が大ヒットしたことで旧カルピス社の業績は急拡大するものの、2000年代に入ると「カルピス」ブランドは再び苦戦する。
その頃、アサヒ飲料の岸上克彦社長は、コンク飲料事業部長、ストレート飲料事業部長を歴任し役員としてブランドを扱う立場になっていた。
岸上社長は「なぜ頭打ちなってしまったのか」と志を同じくする人たちを集めて、08年にマーケティング・宣伝・営業・生産の部署横断で『カルピス』ブランドを見直すプロジェクトを発足させる。
まずブランドを再定義すべく消費者調査を実施したところ「お客さまにとって『カルピス』は「白くて、甘くて、おいしい飲み物」の認識にとどまっていたことが判明した。われわれが当然、理解されていると思っていた「乳酸菌を発酵してつくられている」の回答は皆無に等しく、さらに白い液色が牛乳由来と結びついていないことも分かり、プロジェクトチームのメンバーは愕然としてしまった」という。

この状況を打開すべく「カルピス」の価値を伝えようとして行き着いたのが「カルピス」の生みの親である三島海雲の考え方であった。
「カルピス」の本質は、
――おいしいこと
――滋養になること
――安心感のあること
――経済的であること
の4つが柱であるというのが、三島海雲が長年提唱し続けてきたこと。
岸上社長がこの考えに立ち戻った結果、「カルピスウォーター」はこの4つの柱のうち「おいしいこと」しか認識されていなかったことに気が付く。
その「カルピスウォーター」も92年に2千450万ケースを達成したことを境に数字を落としていく。「おいしい飲料は、乳性に限らず他メーカーさんからも次から次へと出され、ブランドスイッチが進んでいってしまったのだと思う」と分析している。

そこで「おいしいこと」以外の残りの価値を伝えることに注力。09年からすべての「カルピス」ブランド商品のパッケージに「国産の生乳を原料に乳酸菌の自然の恵みから生まれている」ことを記載し、TVCMを含めてブランドのあらゆる接点で品質価値訴求を展開。
これによりすべての「カルピス」ブランド商品が再浮上し18年には08年と比べ「カルピス」ブランドの出荷量は約1.5倍へと拡大した。(つづく)